column
第一回
人の手と技で、
蔵が生まれ変わる
100年先へ繋げる大工仕事—前田久志さん
文=小山芳恵 写真=若林聖人
四間道を象徴する、白漆喰の古い土蔵群。その中のひとつ、築100年を超える重厚な蔵が新たにイタリアンレストランとして生まれ変わろうとしている。「こうした古い建物に携われるだけでワクワクします」そう話すのは、今回の工事を担当する大工の前田久志さん。「親も祖父も、親戚もみんな大工。だから自然にこの仕事を選んでいました」といい、これまで20年にわたって多くの現場で活躍している。
中でも前田さんが多く関わってきたのは、社寺仏閣の修復。古いものを傷つけずに残しながら、いかに今よりよく見せるか。それは大変難しく緻密な仕事だと話し、こうした経験で培った技を今の仕事にも活かしているという。例えば蔵の扉。朽ちてしまった部分を修復するには再度漆喰を塗り直し、以前のままの風合いと同じように仕上げる細やかな“エイジング”作業が必要だ。他にも当時のままの姿を残しつつ耐震を考慮して梁を変えるなど、外からは見えない部分にも細心をはらう。「特に構造体の部分は古いだけに直すことが難しい。梁を取ることで建物自体が壊れることもあるので注意が必要です」と前田さん。「こうした仕事にもこれまで得てきた経験値と知識が本当に役立っています」と語る。
さらに前田さんが渾身を込めて仕上げたのが、アプローチに備えられた風雅な穂垣だ。竹をひとつひとつ編み込んで立体的に仕上げる穂垣は極めて繊細な作業で、これまでこのような仕事には携わったことがなかったという。「やったことのない仕事をすることでさらなる自信と経験値につながる。それがとても嬉しく、またこういう機会を与えてもらえたことに感謝しています」。
構造体の修復、漆喰や床板の塗り替え、設備やライフラインの導入。こうした仕事のすべては、前田さんが信頼を寄せる仲間たちと行っている。「難しい仕事であればあるほど、チームで意思疎通をはかりながら進めていくことが大切です」。腕の立つ仲間を増やしていくために、今後は人材の育成にも力を入れるとも。「これまで自分が得てきた技や知識を引き継いで、古きよき建物をひとつでも多く次世代へと残していきたい。棟札に記された100年前の職人が精魂込めて作り上げた建物を未来へ残し、100年後にもこの蔵が多くの人々に愛され、親しまれる存在であってほしいと願っています」。