column
第二回
和の造園技術で
町家に新たな表情を
未来に残す庭を造る――仲本昌敏さん
文=横澤寛子 写真=若林聖人
飲食店が集結した町家。その周囲に植栽された小さな庭になぜか目がとまった。面積にすればわずかなスペースなのだが、瓦や石を組み合わせた和の趣と、青々とした苔やシダの美しさについ見とれてしまう――。
そんな人の心を惹きつける庭を手掛けたのが、愛知県愛西市で造園業を営む仲本昌敏さんである。「実家が花屋だったんです」と語る仲本さんは、子供の頃から植物に触れ、稲沢高校造園科に進学。さらに京都芸術短期大学(現・京都造形芸術大学)で造園を学んだ後、京都の10作家として知られる庭師・河原巌氏のもとで修行した。その後、愛知に戻り独立。「独立というと聞こえはいいですが、最初は何でも屋みたいなものでしたね」と仲本さんは笑うが、様々な経験を積み上げる中でフラワーデザインも習得。現在は和だけにとどまらず、洋の庭も手掛けている。様々な経験を重ねていく中で、人との関りも築いてきた。この那古野で仕事をするきっかけとなったのも、大工工事業を営む知人との縁から生まれた。
「初めて那古野で仕事をして、名古屋にこんな場所や建物が残っているんだと感動しました。四間道あたりも歩くことが増えましたよ。この雰囲気が残っていってほしいと思いますし、これからも色々なものが受け継がれ、残っていけるんじゃないかと思っています」
そんな風に話す仲本さんが手掛ける庭は、見た目だけでなく、長年、植物と向き合ってきた経験が凝縮されている。例えば、先述の植栽は、建物の軒先を利用した小さなスペースのため、植物が育ちづらい環境ではあるが、山砂や黒土を組み合わせて土壌を改良。土を高く盛り、水はけをよくしたうえで奥の部分には日陰に強いタマリュウを、手前には杉苔を配置するなどして、植物が育ちやすい環境を作った。また、元々あった富士石を生かしつつ、軒下には菊炭を敷き詰めることで、土の呼吸をうながしつつも、黒と緑の対比を作り出している。派手さはないが、心に残る。奥深い庭を造る仲本さんは10年以上、専門学校で講師を務めるなど後進の育成にも取り組んでいる。先日は、学生3人のガーデンコンテストへの参加希望を受けて出品。学生たちの力を引き出し、金賞を受賞した。
「学生から希望があれば、造園の現場にはどんどん連れて行きます。『こんな庭を造ってみたい』と思ってもらえたら嬉しいです。また、那古野で仕事をさせていただいたことで、この場所にもっと緑が増えるといいですね」
過去から未来へと残る庭を造っていきたいと教えてくれた仲本さんは、これからも人の心に残る庭を造り続けていく。