column
第七回
伝統と新しさを融合させ
那古野らしさを未来へとつなぐ
職人技に拘る建築家--鈴井良典さん
文=河野好美 写真=若林聖人
「那古野は僕が育った場所。昔のこの界隈は、駄菓子屋さんもあって子どもたちが街の中で遊んでいるような、そんな下町でした」。そう話してくれたのは『鈴井良典一級建築士事務所』の鈴井良典さんだ。
進学のため名古屋を離れた鈴井さんは、早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、同大学の大学院創造理工学研究課建築学専攻を修了。その後、学校や駅舎、ホテル、オフィスなどの大規模建築の設計、監理を行っていたが、次第に「職人の手技を使った設計をやっていきたい」との思いが強くなり、名古屋に戻ることを決意。建築家・宇野友明氏の事務所に就職し、設計に加え、材料の調達から施工に至るまで建築全般を学んだことが転機となった。


現在進行中の『四間道角地プロジェクト』では、洋風の木造家屋の外観を、賑わいのある円頓寺のアーケード側と伝統的な町並みが続く四間道側とで表情を変え、角地としてのつながりを大切にした和モダンな建物が誕生する予定だ。
「15年ぶりに見た那古野は、遠方からのお客さんが多くなって、賑わいのある町になっていました。さびれた印象のあった昔とは違っていたことがとてもうれしかったです。そんな伝統と新しさが融合させることで発展を続ける那古野とは、設計を通し長く携わっていけたらと思っています」と笑顔で話してくれた。


「材料について深く考えること、素材との組み合わせによって現れてくる空間に関心を払うこと、建物の大きさや各部分の間のバランスと見せ方をミリ単位でデザインしていくことを大切にしながら設計を行い、施主様へのプレゼンの際には、分かりづらい図面ではなく、完成時のイメージパースを用いて丁寧にご説明させていただいています」という鈴井さん。『HOTEL和紡』のフロントなどが入り、入口の真正面に据えられた真柏が印象的な『本坊筋長屋』の共用部分には、室町時代から続く日本の伝統技法のひとつ”組子“を取り入れた職人の手によるオリナジルの照明のほか、屏風をイメージした壁には伝統工芸士に錫箔を貼ってもらったものを採用。藁すさを入れ、土壁の風合いがでるようにした貫入仕上げの壁は、塗る厚みによってヒビ割れの大きさが変わるため、サンプルを4~5回作ってイメージに合うものを探り決定した。さらに、金属と木の風合いがマッチしたささら桁の階段など至る所に職人の圧倒的な技を見ることができる。建物の外観は、ポストやごみ箱など生活感が出てしまうものはデザインで隠しつつ、街に馴染むように仕上げられている。
店名を『日仏食堂~en~』から『dai-DAN~en~』に改めリニューアルオープンしたフランス料理店の全面改装を手掛けたのも鈴井さん。「一番苦労したのは、2階にあるウォークインのワインセラー。床、梁を補強したり、柱の位置を調節することで荷重に耐えられるように、また外壁と同じ仕様で気密性と断熱性を上げ、結露にも対応しました」。このほか、温かみを感じるアイアンを手すりに使った階段や覗くのも楽しいワインセラーの扉に取り付けられた小窓など、店内の細部にまで心配られたデザインが、訪れた人を和やかな気持ちにさせ、食事の時間を楽しいものにしてくれている。
