那古野と天ぷら

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松月

天ぷら×ワインの
新しい提案で
店と街を盛り上げる

 長年にわたり栄で天ぷらの店を営むオーナーの桑原幸秀さんが那古野に店を出したのは、 「栄のビルの老朽化問題もあったのですが、一番は新しい店が増えているこの街の波に乗りたかったからです」だという。「名古屋の商売の王道といえば、これまでは名駅か栄でした。でもここは今後注目を集める街になると思っています」。また「お客さんの大半がビジネスマンを占めるという栄に対して、この街は地元の人や観光客など、老若男女さまざまな人がいる。その分好みも多種多様です。だからこそチャレンジしたいと思いました」とも。さらに名駅からの距離感もいいとも話す。「名駅からわざわざここまで歩いてこなくては来られないという適度なアプローチがあることで、店に対する期待感も自然と高まります。それに応えられる料理を提供したい」と笑顔を見せる。

固定概念にとらわれない
マッチングで天ぷらとワインを

ここで味わえるのは、カウンターで楽しむ揚げたての天ぷらとワインだ。この道38年の熟練料理人、刀根清和さんがこだわるのは素材の味がきちんと伝わる薄衣。粉の付き具合はもちろんのこと、油もさっぱりとしてもたれないコーン油を中心に独自の配合で揚げる。
 その天ぷらも変わり種が評判。海苔に刺し身湯葉を乗せて揚げた一番人気の天ぷらは、口の中でトロリとした湯葉の甘みと北海道産の新鮮な生ウニのうま味が広がり、なんともいえず贅沢な味わい。また甘みの強い下仁田ねぎを揚げてアンチョビの塩気アクセントに添えた天ぷらも他ではなかなかお目にかかかれないもの。新鮮なアボカドに濃厚なチーズ、サーモンを組み合わせて揚げた一品は、女性に人気だという。なるほどいずれもワインも進む美味ばかりだ。「スタッフみんなでいろいろとアイデアを出してメニューを作りましたが、今はお客様に評判がよかったものを残して提供しています」と話す桑原さんの言葉にもうなずける。

 こうした天ぷらに合わせるワインは桑原さんが信頼を寄せる酒屋から取り寄せるもの。シャンパンはもちろんのこと、爽やかな白のソーヴィニヨンブランや、ワイン通に人気のボルドーなど、「天ぷらといえば白、という概念にとらわれず多彩な味を楽しんでもらいたい」という桑原さんの言葉どおり、さまざまな味が楽しめるのが魅力だ。また天ぷらの専門店としては珍しく、ワインの飲み比べや季節ごとのイベントも行なっている。時には希少な一本も登場することもあるとあって、これらのイベントを楽しみに訪れるリピーターも徐々に増えてきているとか。「世代を問わず愛される店となって、街の活性化につながれば嬉しい」と桑原さん。そのため、この界隈で行なわれるパリ祭やイベントにも今後は積極的に参加していく予定だとも。「今まではこの店のことで精一杯でしたが、ようやく軌道に乗り始めてやりたいこともみえてきました。今後は那古野をもっと盛り上げるために、店としてできることをしていきたいと思っています」。