那古野と肉割烹

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淡 如雲

肉を取り入れた
斬新な日本料理で
那古野から世界へ

 長年、岐阜・多治見で日本料理店を営んできた主人の山内昭如さんがここで供するのは、日本料理には珍しい和牛をふんだんに使った会席料理だ。とはいえ単に焼いたり煮込んだり、というのではない。これまで培ってきた和食の技を駆使した一皿だ。
 たとえば一度冷凍して旨みを浸透させた昆布〆は、口の中の温度に触れた瞬間、芳醇な甘みとうま味が広がる。またあらかじめ昆布だしで炊いた肉は焼いた時に肉の臭みや雑味もなく、濃厚なうま味だけが残る。「今は肉のエイジングが主流だけど、私がやっているのは真逆の調理。タンパク質が固くなる前にだしや酒粕に漬けて、低温で調理をすることで肉の柔らかさや味を引き出す技法です」と山内さん。経験値だけではなく、最適な温度のデータをきちんと取って分析しているというから脱帽だ。

一人ひとりに合った料理を
ライブ感溢れるカウンターで

 これら肉がメインの日本料理を手がけようと思い立ったきっかけは、以前渡仏した際に牛肉をはじめ鴨や鳩を使う和食を作った経験からだという。「味噌や醤油など和の調味料が何もない中での挑戦でしたが、日本料理の技術で乗り切ってその味を認めてもらうことができました。その時に肉という素材が持つ可能性を見出しました」。同時にこれまで研鑽してきた日本料理がここでゴールでないことも知り、肉に対する調理の技術を身に付けることで、もっと日本料理の魅力が広がることがわかったともいう。

 こうした新しい境地の料理を供する場所として山内さんが選んだのが那古野だ。「初めて那古野を訪れたときは夕暮れで、夕陽が映し出す街の美しさや風の心地よさに惹かれました」と話す山内さん。まるで京都のような風情が漂う那古野の街に惹かれ、ここで新たな挑戦をしようと思ったという。さらには店を構えることとなった今の物件に出会ったことも契機になったとも。「この店は以前、お茶の先生のご自宅だったところ。せっかくだからこの雰囲気を壊さずに、店をやりたいと思いました」。和の情緒漂う店内は一枚板のカウンターとテーブル1卓のみ。「お客様と私どもの一期一会の時間、そして料理ができあがるまでのライブ感を体感してほしいと思ったのであえてカウンター中心の店にしました」と話す山内さん。その肉が持つ個性や旨さをちゃんと伝えつつ、また客人一人ひとりの好みに応え、極上の一皿を供することに徹していきたいという。

 今後はフランスの迎賓館の晩餐会で日本料理を供することが目標と話す山内さん。「そのためにもここで頑張ってもっと多くのお客様にこの料理の魅力を知ってもらいたいと思います」。そのためには那古野という街の力が必要であり、この街に人の流れを作りたいとも。「ただスポット的にめざす店へ行くのではなく、街を巡ってまた再び訪れたいと思ってもらえるような場所にしていきたい。そのためには店や料理を通してこの街のよさをもっと発信し、新しい那古野の歴史と文化を作っていきたいとも思っています」。