ポピー焙煎室
喫茶ニューポピーの
お客様をより快適に
その思いから生まれた
特別室
「喫茶店生まれ、喫茶店育ち」。尾藤雅士さんが自ら語るこの言葉は、彼の人生と名古屋の喫茶文化の関係を端的に表したものである。尾藤さんの実家は、名古屋駅近くで約40年間営まれていた『喫茶ポピー』。しかし、幼少期の尾藤さんにとって喫茶店は憧れの場所ではなかったため、家業を継ぐ気は全くなかったという。
そんな尾藤さんが『ポピー』を継いだのは27歳のころ。「継いだと言っても表面的なことを覚えただけなんですけどね。そうなんですけど、すごく忙しい店でもあったので、“自分でもやれる”というか、“僕が店を回してるんだ”という気になって」。そんな思いから独立を目指し、自身で最初の店舗を立ち上げた尾藤さん。その挑戦を通じてゼロから常連客を開拓していくことや、スタッフを育てることへの難しさを知り、「やっぱり歴史には勝てない」と実感したことが『喫茶ニューポピー』の構想を抱くきっかけとなった。「母より俺の方が知っている」と思い上がっていた若き日の自分を振り返りつつ、父や母が築いてきたものへの敬意を深め、「謙虚にポピーの名を残してやらせてもらおう」との思いから『喫茶ニューポピー』が誕生した。


「出店するにあたって、全部で20軒くらい物件を見ました。その巡り合いとご縁の中で紹介された物件が、那古野のこの場所でした」。まだ建物は建設途中で、自身の思っていた家賃の倍以上の物件であったにも関わらず、「迷うことなくここがいい」と決断したという尾藤さん。オープンから6年経つ今となっては、平日でもウェイティングをする人が出るほどの人気店となった。そんな中、尾藤さんにある思いが。「店として売上があがっていくことはすごく嬉しかったんですけど、お客様が増えてくるとオープン前には見えなかった細かな問題点が見えてきてしまって。この状況をどうしたら改善できるんだろう?」と考えた時に頭に浮かんだのが店の狭さだったという。「水や料理の提供をフルサービスでして、焙煎もやって、卸の荷造りもやって、料理の仕込みもやって。これらを一つの店でやってるとなると、狭いですよね」。そんな喫茶ニューポピーが抱える運営上の課題に加え、「外で待っていただいているお客様が10分でも15分でも暇つぶしができる。ニューポピーを体験したお客様が店の味を持ち帰ることができる。そういった場所を提案したいとのアイデアが生まれたころに、またも新しい場所を紹介していただいて」。セントラルキッチン未満で仕込みもできて、魅力的なグッズも購入できる。そんな尾藤さんのアイデアを形にした『ポピー焙煎室』が店のすぐ東にオープンした。


こだわりの品々とストーリー
古き良き喫茶店文化を
未来に向け伝承
焙煎室を訪れた何人かに「コーヒーを淹れている場所はたくさんあるけど、仕込みの風景を見ながら買い物ができるのってなんか斬新だね」と言われたというこちら。豊かな発想で作り上げた店舗の設計には細部にまでこだわりが見られる。その一つ、低い天井を活かした鏡張りのトリックアートのような不思議な空間。二つ目となるのは絨毯の青色だ。ポピーの花の中でも群生することなく、険しい山肌にしか咲かないブルーポピー。「コーヒー業界のトレンドに左右されることなく、古き良き喫茶文化を貫く自分の姿勢がブルーポピーと重なる」と感じて選んだ。そのブルーポピーの深みのある青が、この独特な空間デザインに反映されている。
さらに、焙煎室の魅力をアップさせているのがチーフであり母である孝子さんと、スタッフの仁科さん。「共に70代の二人が元気で働いてくれていることで店に説得力が出ますよね。こんな感じで、いろいろなことを計算して作った部分と、計算外のいろんなことが今ここで合わさって言語化されている。まさに、そんな感じです」と尾藤さんは語る。
置かれた国産の焙煎機は、焙煎士の人柄が出るアナログの直下式のものを採用。独自技術で焙煎した名古屋の人が好む深煎りのオリジナルコーヒーを提供している。
店頭に並ぶコーヒー豆は100gから豆でも粉でも購入可能。「せっかくここを訪れていただいたなら、変わったものを楽しんでほしい」という尾藤さんの思いから、ファインロブスタやブラジルのゴールデンレーズンなど特別な豆が常時何種類かラインナップされている。


さらに、喫茶文化を未来に伝える取り組みとして、アパレルやグッズにも力を入れている。例えば、タバコの煙が漂う昔ながらの喫茶店の雰囲気を再現した「喫煙天使」をデザインしたアパレル商品。これを見た時に「これってなんでこういうデザインなんですか」って聞かれたら「昔の喫茶店はタバコを吸えて店内はタバコの煙がモクモクで、歩くと靴がくっついちゃうようなのが喫茶店だったんだよ」といったように、置かれた商品に触れることで昔の喫茶店の様子を伝える機会が生まれると尾藤さん。生産量が激減している桝とコーヒーがコラボした「マスプレッソ」や柿渋とコーヒーで染め、福祉施設で制作した「トートバッグ」など、喫茶文化に留まらず失われつつあるものや、福祉への思いも強い。
また、喫茶ニューポピーで人気のあるメニューブックのイラストをドリップパックコーヒーにして持ち帰ってもらおうというアイデアから生まれた5種類の味が詰め合わせされた「ドリップパック缶」や、アウトドアでも楽しんでほしいという「ポピーのコーヒーライスカレー」のレトルトなど、喫茶ニューポピーのオリジナル商品も人気を集めている。

『喫茶ポピー』があったからこそ「喫茶文化を後世に伝えるのが自分の使命」と語る尾藤さん。「自分の愛するものをどうやって良くしていくか」を軸に、さまざまなアイデアを形にした『ポピー焙煎室』や『喫茶ニューポピー』を通じて那古野という土地で多くの人々と繋がり、古き良き喫茶文化を守りながら未来へと繋いでいる。その姿勢が地域の魅力をさらに高め、喫茶文化の新しい可能性を広げるものとして、多くの共感を呼んでいる。

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- ポピー焙煎室
ポピーばいせんしつ - 住所 : 名古屋市西区那古野1-36-52
営業時間 : 8:00~18:00(金・土は~22:00)
定休日 : 木曜日
- ポピー焙煎室