那古野と鮨

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橋本

鮨と一献一心
握りで新たな街の
息吹を生み出す

 重厚感あふれる白木のカウンターに向き合い、鮮やかな手付きで鮨を握る主人の橋本達也さん。東京の名店で約20年技を研鑽し、名古屋に戻ってからは実家の寿司店で腕を振るっていたが「兄弟が継ぐことになったので、自分も店を持とうと思いました」とその思いを話す。出店の候補地として市内のあらゆる場所を見て回ったが「那古野が一番よかった」と振り返る。
「那古野は子どもの頃、部活用のスパイクを買いに来たり駄菓子を買ったり、いわゆる“下町の問屋街”のイメージでした」と橋本さん。だが、久々に訪れて印象がガラリと変わったという。「町並みは変わらないけれど、蔵を改装した店があり、また蔵のようにかっこいい建物も増えて、新しい息吹を感じました」。街全体の“空気感”もいいという。「私たちのようにここで働く人たちと、住民との距離感がいいので那古野でよかったと心から思っています」。

さらに名古屋駅から歩いて来られる距離感もよかったとも。「出張族の人たちが、新幹線に乗る前に少し寿司と酒を楽しめる。そんな店にしたかったので、開店も早めの時間帯からにしました」と笑顔を見せる。

地元の素材を誇りに
粋な鮨と酒
那古野の風景に溶け込み
存在感を放ちたい

 橋本さんが寿司に使うネタは、三河湾や知多半島で水揚げされた魚介など地元のものが中心。「とにかく魚種が豊富で、江戸前寿司の材料としては品揃えが抜群。築地でも三河湾の魚はトップブランドで評価されています」と絶賛する橋本さん。脂ののったタイはそのままの旨味を楽しめるようやや肉厚に。またコハダなどの光り物は、橋本さんが惚れ込んだまろやかな酢で締めて、味わいをより深くする。「東京で働いて、あらためてここの魚介のすばらしさを実感しました。寿司に必要な海苔や卵も知多ブランドや名古屋コーチンなどいいものが揃っています。そのすごさを、お客さまに伝えていきたいと思っています」。これらネタの味を引き締めるわさびも上質なものを使用するなど、徹底したこだわりだ。
 さらに魚介同様、橋本さんが大切にしているのは米。橋本さんはブランドを考えず、その年にできたものの中から多少パラリとした炊き上がりになる米を厳選する。「少しずつ火加減を調整しながら手鍋で丁寧に炊きます。ネタに対する仕事は修正ができても、米は炊き直しができないから、無事に炊き上がった時はホッとします」と話す橋本さんの表情は、まさに寿司に対して真摯に情熱を傾ける職人そのものだ。これらのうまい鮨にはうまい酒も欠かせない。酒もまた酢と同じ醸造場のものを中心に揃えている。酒器は瀬戸や美濃、常滑などの焼き物を中心に橋本さんが選んだ多彩なものの中から、好きな器をその日の気分に合わせて選ぶことができ、こうした粋なはからいもまた客人の心を惹き付ける。

 この店、そして寿司を通して「那古野という街ともっと仲良くしたい」と橋本さんは意気込みを見せる。「町並み保存地区であり、街全体がまとまっていて美しい。その美しい街並みの中に自分も溶け込みたいと思っています。那古野といえば、『鮨橋本』があるところだよね、と人々に思ってもらえるよう、存在感を放っていきたいと思います」。

  • 鮨橋本
  • 鮨橋本
  • 鮨 橋本
    すしはしもと
    TEL : 052-526−2971
    住所 : 名古屋市西区那古野1-36-52
    営業時間 : 16:00~22:00
    定休日 : 月