那古野と茶房

file14

那古野 茶房
花千花

那古野から発信する
身近で奥深い
日本茶の世界

築100年ほどの歴史ある古民家の趣を生かしつつ、現代と呼応するような空間に生まれ変わったモダンな茶房。「認定地域建造物資産」として名古屋市より認定された建造物で「日本の文化を発信したい」と、女将の元花千佳さんが日本茶の魅力を紹介している。
「日本茶には、毎日食後にお茶を飲むという日常の側面と、茶道に象徴される非日常の側面があり、日本人でも知っているようで知らないことがたくさんあります。きちんと茶葉の量を計り、水の分量や温度を調整。難しい作法は抜きにして、丁寧に淹れたお茶のおいしさを知ってもらえればうれしいです。この日常と非日常を近づけるような体験に、那古野という街の雰囲気がしっくり馴染むと感じています。コーヒー店や喫茶店はあれど、日本茶をゆっくり楽しめる店が那古野になかったことも、茶房を始める決め手になりました」。
ところが今まで茶道はじめ煎茶に馴染みがなかったという元花さん。茶房をオープンするために一から勉強を始めたばかりだ。「茶道に詳しいお客様にはいろいろと教えていただき、また日本茶は日常にありすぎて実はわからないという方々も多いので、互いに学びながら成長し続けれる茶房でいたいです。」と顔をほころばせ、何千もの流派を持つ伝統文化の重みに敬意を払いつつ自らも自然体で日本茶を楽しんでいる。
 現在はホテル運営や茶房を手掛ける元花さんだが、もともとは欧米型のウェディングプランナーとして活躍していた経歴を持つ。会場となる場所は、式場はもちろん新郎新婦の自宅、公園、美術館、温泉旅館など全国多岐にわたって新郎新婦と結婚式をつくり上げてきた。
「ウェディングプランナーは、さまざまな技術を持つ人々に協力してもらい、ハレの日をプロデュースする仕事。次のステップを考えた時に、人と人が協力して一つの物事を作り上げるウェディングのスキルを使って名古屋をおもしろく魅力ある場所として伝えることができるのではないか、と思ったのです」。
そして、これからは那古野という地に根ざし、街そのものをメディアとして人と人を繋ぎながらその手腕を遺憾なく発揮していこうとしている。いくつもの出会いとご縁に導かれるように那古野を活動の拠点に据え、日々を生き生きと過ごす元花さんにとって新たなスタート地点となった茶房はまだこれから始まったばかりだ。
「店名は、実は恥ずかしいですが私の名前が由来なのです。日本文化の日常と非日常が交差する場所を幾千もの花に気持ちを込め、僭越ながら私をきっかけとして、人と人が交差する場所になって欲しいと願っています」。

形式ではなく本質を見つめ
文化と風土を次の百年に紡ぐ

茶房では、東海エリアの産地からセレクトされた7種類の日本茶をラインナップ。「訪れるお客様と生産者の橋渡しをしたい」と、あえて有名どころを外し、愛知県豊田市の抹茶や岐阜県東白川村の煎茶、萎凋茶、静岡県川根村の釜炒り茶など知られざる名品にスポットを当てている。「萎凋茶とは東白川村で飲まれていた幻のお茶。煎茶と同じ茶葉を微発酵させることで、日本茶のダージリンとも言われ独特の華やかな香りを漂わせます」と元花さん。その特徴を際立たせるため、まず一煎目はやや低めのお湯で淹れる。いただいてみると、なるほど、鼻に抜ける香りと口に広がるほのかな渋味。煎茶のまろやかな旨味とはまた違った魅力がある。そして二煎目は一煎目よりも高温の湯で淹れることで、渋味と旨味の両方が引き立てられている。ひと口に日本茶と言っても、適切な淹れ方でこうも味わいが変わるものかと驚くばかりだ。

 お茶請けや茶器にも、元花さんのプロデュース力が冴えわたる。1927年創業間もなく100年を迎える老舗和菓子店、尾頭橋の『不朽園』とは、オリジナルの最中を制作した。なぜ最中だったのか。「那古野には昔から最中の種をつくっている方がいますが、もしかしたらあと何年か先には閉じてしまうかもしれない。続いてきた灯火が途絶えてしまうのは悲しく、私が細やかですがそのバトンを受け継ぐ気持ちをこめて次の時代に繋がるものを作りたいと思ったのがきっかけです。でもどうしても最中ってポジションが地味になりがちで、実は私にとっても特別好きというわけではありませんでした。そんな地味になりがちな最中に、日の目をみるように少し新しい解釈でオリジナルで作れたら…と思ったのがきっかけでした。」餡の糖度は煎茶の繊細な味わいとバランスが取れるよう大幅に下げ、中にはローストした胡桃とドライいちぢくを合わせたものに仕上げた。竹炭を練り込んだ黒い最中種はモダンな印象に。お好みでコニャックをかけて味わうというのも斬新だ。名古屋ではつぶあんが好まれるというようだが、試しにこしあんも作ってみるとドライいちぢくの粒々感が引き立ち美味しかったため無理を言って両方炊きあげてもらえることになった。

 茶器は、常滑焼の伝統的な技法の一つで作られた藻掛け急須など数セットを用意。茶器を納める折敷は、江戸中期より受け継がれる伝統的な三宝作りの技法を取り入れた『岩田三宝』の特注品で揃えている。これらプロデュースの根底には、伝統を古いまま守るのではなく、現代的な解釈を加えて次の百年まで繋げていきたいという思いがある。
「那古野の街には、古きも新しきも受け入れる懐の深さがあります。だからこそ、名古屋の人にも何か新しい発見をもたらしてくれるような、ワクワクできる場所になると直感しました。日本人が代々受け継いできた文化、食、アートを受け止め、伝統の担い手たちと一緒に次の百年に続く新たな伝統を、この街から発信してきたい。茶房がプレゼンテーションの場となれれば、これほどうれしいことはありません」。

  • 那古野 茶房 花千花
  • 那古野 茶房 花千花
  • 那古野 茶房 花千花
    なごのさぼう はなせんか
    TEL : 052-526-8739
    住所 : 名古屋市西区那古野1-18-6
    営業時間:11:00~18:00
    定休日:水
    Instagram:sabo.hanasenca