那古野と茶房

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mirume 深緑茶房

1品種の飲み比べで
日本茶の奥深さを知る

 2013年より名駅に店を構えていた『深緑茶房 名古屋カフェ』が、新しいお茶の楽しみ方を提案する伊勢茶専門店『mirume 深緑茶房』として那古野に移転・オープンした。このカフェは、三重県松阪市にあるお茶農家に生まれたオーナーの松本壮真さんが「正しい茶葉の量やお湯の温度、量などに、厳密にとらわれなくてもおいしいお茶は淹れられる」ということを知ってもらい、日々の生活の中により多くお茶を取り入れてもらうことで、「日本茶の消費量を増やしたい、お茶業界を盛り上げたい」との思いで開いた店だ。

 この地を選ぶきっかけとなったのは、文化と歴史を感じる四間道と、現代に生きる人々の生活が息づく円頓寺商店街の2つの通りが交わるこの場所が、自身の「日本茶の伝統と革新を交わらせ、新たなものを生み出したい」という思いとマッチしていると感じたことが決め手だったという。

 取り扱うお茶は、農林水産大臣賞や天皇杯を受賞した松本さんの実家『深緑茶房』が生産から加工、販売まで一貫して行う安全で上質な伊勢茶のみ。1階では、茶葉や厳選した茶葉のみが入ったティーバッグなどを販売。2階のカフェでは、日本茶インストラクターによる丁寧な指導のもと、急須を使って実際に自分たちでお茶を淹れる体験ができるほか、茶葉についての興味深い話を聞くことができる。「当店のカフェで取り扱うお茶は、日本茶の中でも最も一般的な“やぶきた”という品種1種類のみ。日本茶には60種類以上の品種があるため品種別での飲み比べも楽しいと思いますが、1品種を飲み比べてもらうことで、栽培方法、加工方法、焙煎度合いなどの違いにより味も香りも変わるお茶の奥深さを体感してもらえると思います」

 お茶請けは、自慢のお茶との相性を考え松本さんの妹・美咲さんが手作りする“チーズケーキ”、熊本県産の和栗が入った栗ようかんとかぶせ茶の緑茶ようかんの2種類が味わえる茶畑の景色をイメージした“ようかん”など、こだわりの品が用意されている。これらのお茶請けと自身で淹れたお茶とのペアリングを楽しみながら、昔、茶葉を保管するために使われていた茶箱をイメージした椅子に座り、ゆったりとした時間が過ごせるのが魅力だ。

日本茶の新たな
楽しみ方を
那古野から発信

 同店のもう一つの看板といえば「朝ボトル」。水曜日以外の平日の朝8時から10時、店舗外カウンターに並ぶお茶の入ったボトルを購入し、そのままオフィスや自宅で水分補給。1煎目を飲み終えた後も、水を足すことで3回ほど楽しめるというもので、飲み終わったボトルは店頭に洗うことなく返却できるため、ごみが発生することもなく環境にも優しい画期的な商品だ。この発想は、松本さんが育った環境による。「お茶農家である僕の実家では、夏場になると冷蔵庫の中には常にお茶が入っていましたし、食後には必ずお茶を飲んでいました。こんな風に、日々の生活の中で自分が当たり前のように飲んでいたお茶を、みなさんにももっと気軽に飲んでもらいたい」と思ったのがきっかけだという。

 「朝ボトルを買ったことをきっかけに、週に2~3回通ってくれるお母さんと5歳の男の子がいるんです。その子がお父さんとカフェに来店した際に、お茶の淹れ方をお父さんに教えている姿を見て微笑ましく思いました。それに、若い子たちがあまりお茶を飲まなくなっているといわれている昨今、こんな小さなお子さんでもお茶に興味をもってくれたことが嬉しくって」という松本さん。この経験がきっかけで、親子で一緒にお茶の淹れ方を体験できるワークショップなどの開催を検討しているという。また、円頓寺商店街で行われるサタデーマーケットなどのイベントに参加することで地域を盛り上げながら、「日本茶は気軽に楽しんでもらえるもの」ということをより多くの人に知ってもらえるよう努めていきたいとも。さらに今後は、お茶とお茶の木を使った燻製などの料理が楽しめるノンアルコールバーを考えているという松本さん。「お酒を飲まなくても、楽しくコミュニケーションが取れるそんな空間を地域の方々に提供できれば」と夢は広がる。