那古野とイノヴェーティヴフュージョン料理

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Riverente

発酵を芸術に極める
感性が光る料理に
魅了される

 「大々的に店をオープンしたくなかったんです。だから看板もなし。四間道沿いにありながら、通りからまったくわからないこの場所が隠れ家的で良かったです」。その思いとは裏腹に、オープンから1カ月ほどで予約の取りづらい店として知られるようになった『Riverente』。
 なだらかに続く石の階段を上った先にある木の扉を開ければ、和の空気感漂う那古野の街や建物とのギャップを意識したという店内。黒を基調に和と洋を見事に融合させたモダンでシックな空間が広がる。穏やかな笑顔で迎えてくれるスタッフに導かれるままカウンター席へと足を進めれば、食を知る大人たちの誰をも楽しませるために仕掛けられたライブキッチンが目の前に。

  シェフを務めるのはフィレンツェや北イタリアのトレンティーノ・アルト・アーディジェ州を拠点に、2星レストランなど複数店舗で研鑽を積んだ塚本恭弘さん。フランスのジャンルイコケや作家にオーダーしたという信楽、美濃、清水焼の器に独自のセンスで配された料理は、イタリアンをベースに醗酵バターや麹、乳酸発酵系の野菜といった自家製の発酵食品を調味料として活かすなど、塚本さんの興味や経験を軸に熟考されたイノベーティブ・フュージョン料理だ。
着席からほどなくして登場するのが、食前酒とのマッチングを考えたアペリティーボ。その繊細かつ芸術的な盛り付けと、丁寧な仕込みを施した一つひとつの素材が一体となった時のここならではの味わいに、否応なく本コースへの期待が膨らむ。

 ひと皿ごとの見せ方や構成にもこだわったというコースは、イタリアのトレンドである少量多皿のスタイルで提供。「少ない量で提供することで、より多くの料理を味わってもらい、ウチならではのひと時を存分に楽しんでもらいたい」との思いが込められている。
なかでも注目すべきは、スイスのグリュイエールなどのチーズ100%で作られるニョッキ。普段食べ慣れている小麦粉ベースのニョッキとは一線を画すこの料理は、塚本さんがイタリアで初めて食べた際、そのあまりのおいしさに「日本で食べてもらいたい!」と思い、レシピを習得してきもの。味わいともに他店では味わえない同店のスペシャリテだ。

貪欲に学び
真摯に料理と向き合う
全てはお客様に
楽しんでいただくため

 中学2年の頃より少しずつ料理をはじめ、高校の友人とお互い作ったものを食べるように。その際「自分の作ったものが喜んでもらえるのが嬉しい」と思ったことをきっかけに自然と料理の道へと進んだという塚本さん。イタリアンの基礎を学んだ店で共に働いた先輩とイタリアで再会したことで自身の料理に対する心構えが変化したとも。「一緒に働いていた当時から料理に対する姿勢や、考え方が凄い人で料理バカだとは思っていたんですけど、イタリアに住んでからいい意味で料理バカに磨きがかかっていたというか(笑)。一例として、近くにいいトラットリアがあるから行こうとなったとき、普通に歩けば15分程度のところを、道端の草を見て“これ使えるな”とか、何かを見つけるたびに料理の話を始めるから店にたどり着くまでに1時間くらいはかかってしまうんです」。そんな姿を見て「本当に料理が好きで、本物の料理人っていうのはこういう人なんだ。こういう人になりたい」と思ったことから、自分のやりたい料理が漠然としかわかっていなかったことを再確認。「今まで以上にいろいろ調べ、行く場所ごとに自分の中でやりたいこと、見つけたいことを明確にという考えになって。それから料理に対するコンセプトなどが変わりはじめました」。このエピソード以外にも、いい意味でのイタリア人との感性の違いや、イタリアで出会った日本各地からきている料理人からもらった刺激が今の店づくりに反映されているという。

 日々の仕込みがある中、週に3~4回は名古屋市中央卸売市場や北部市場まで朝イチで仕入れに向かうという塚本さん。「市場に足を運ぶと、新しいアイディアが思いつくこともあるんです。だから絶対に行くようにしています。市場の人と話すことで、いろんな情報も入ってくるので欠かせません」。
 料理とのペアリングも楽しめるワインはイタリアを中心に、香りなど主張の強いワインを避け、料理を際立たせるものを厳選して用意。これらのワインと料理をより楽しんでいただくため、「畏まり過ぎず、気軽な感じでカウンターに来てほしい」との言葉通り、気さくな雰囲気で饒舌に話かけてくれる塚本さん、話術に長けたスタッフ、塚本さんの料理を学びながらも片腕となって働くイタリア人シェフのロレンツォらが料理を楽しむだけでないここならではの特別な夜を演出してくれている。「お客様に楽しんでもらおうと思ったら、自分が楽しくないと意味がない」と言い切る塚本さんの今後の思いは、醗酵の幅広さをもっと取り入れていくこと。さらに醗酵飲料のコンブチャの種類も増やし、コンブチャと料理のペアリングにも挑戦したいという。加えて「那古野には様々なジャンルのいいお店がたくさんありますよね。その店の料理人の方々とコラボができれば面白いことができるんじゃないかと思っています。お互いに刺激しあうことで勉強にもなりますし、なにより那古野の文化と層を厚くするというか、地域おこしにつながればいいと思っています」。