那古野と日本料理 | 虹霓

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虹霓

全てを見せる店づくりは
お客様へのメッセージ

那古野エリアの中でも新店のオープンが続き、注目を集める沢井筋の一角に凛と佇む日本家屋。通りに面した格子戸を引くと、ほの暗い明りに照らされた通路が奥へと伸びている。正面の壁に浮かび上がる1枚板を彫り上げた昇り龍へと歩みを進め、右側にある2枚目の扉を開けると、L字型のカウンター席とキッチンが一体化したまるでシェフズテーブルのような贅沢な空間が広がる。
 ここ『虹霓』は、オリジナリティ溢れる中国料理の名店として人気を博し、「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版」で一つ星を獲得した『明道町 中国菜 一星』のオーナーシェフ・篠田昌利さんが名前も新たに移転オープンさせた店である。

2022年6月に誕生した同店だが、篠田さんは那古野への移転も店名の変更も最初考えていなかったという。しかし、この物件に出合ったことにより心に変化が。「この物件は建替えで新築という話しを伺いましたし、広さも十分だったので、ここなら何かできるのでは」と思ったことがきっかけとなった。

その思いを具現化した店内は、どの席からも調理する手元までしっかり見えるように工夫がされている。「前の店もオープンキッチンではあったんですが、調理中はお客様に背を向けていました。今の店では、正面の席からは料理を作っている姿を、サイド側の席からは調理風景も含め全てを見てもらうことができるので面白いと思います」。さらに、その日に使う食材を全てのお客様に見てもらうため18時からの一斉スタートとした。これら全てを包み隠さず見せるこだわりは、お客様に信頼していただくためのメッセージが込められている。

中国料理をベースに
「食材×調理法×味付け」で魅せる
完成された一皿の口福を知る

和の器を使い、一品ごとに完成された料理が供される和会席を思わせるコースは、季節感を大切に、毎朝柳橋市場で仕入れる鮮度にこだわった魚介類をメインとした10~11品のおまかせコース1種類のみ。
上海蟹がシーズンとなる10~12月には、おまかせコースの代わりに上海蟹を中心としたコースとなる。使われるのは、最高級と称される楊登湖産の生きた上海蟹。最初に運ばれてくるのは、15年ものの陳年紹興貴酒のほか5種類の酒や無添加醤油などをブレンドした自家製のタレに上海蟹を約2週間つけ込んだ通称「酔っ払い蟹」。紹興酒が香り立つねっとりとした身と濃厚でふくよかな味わいの味噌は、まさに酒が進む逸品である。コースのメインともいえるのが雄と雌の食べ比べが楽しめる蒸篭蒸し。目にも鮮やかなオレンジ色をした卵、甘みを感じる引き締まった身、甲羅についた味噌が一度に味わえるのは贅沢そのもの。ショウガ入りの黒酢に付けて味わうのは勿論だが、まずはそのまま素材の味を堪能するのも一興だ。

また、「春巻き」も他店とは一線を画す一品。千切りにした生の剣先イカと湯通しした銀杏、紹興酒で作った自家製からすみを皮で巻き、200度以上の油で素早く揚げた春巻きは、外はパリッと中は半生と絶妙な火加減で、剣先イカの甘み、銀杏の食感、からすみの塩味が唯一無二のハーモニーで楽しめる。
根強い人気を誇る「牛ヒレ肉の担担しゃぶしゃぶ」は、肉のとろけるような柔らかさとスープのコク深い味わい、後からやってくる程よい辛さが後を引く。ヒレ肉を食べ終わった後に追加される自家製麺を入れた「担担麺」も人気が高い。大きくは季節ごとのメニューとなるコースだが、日々仕入れる食材により少しずつ内容が変化。また、以前の来店時と内容がかぶる人には、その時々の発想で生まれた料理を提供する。その際の料理について尋ねたところ、「僕の場合は、食材と調理法と味付け。この3つを掛け合わせて、自分の中で美味しくなるイメージをつくるんです。だから、同じ食材でも独自の新しいメニューが生まれた時は嬉しいですね」と笑顔。東京の『四川飯店』などでの修業時代を含め、『四川飯店 名古屋店』で料理長を務めた実力派だからこそのここにしかない味わいに魅了されるファンも多い。

ダブルレインボーを示す店名は、接客を主に担当する女将のみなさんが見つけたもの。「2つの文字はどちらも“にじ”を意味していて、中国では“にじ”は“龍”の意味がある縁起のいい言葉でもあり、虹は雄の龍、霓は雌の龍を指しています。綺麗な文字ですし、夫婦で頑張ってやっていくのにもふさわしいと思いました。たまたま入口にある昇り龍の制作中だったことも重なり、最初は店名を変える気はなかったのですが、瞬間的に決めていました」。
 開店当初から話題を集め、すでに予約困難となっている同店。「今後も高級店の模範となるような店を目指し、那古野エリアに恥じない店づくりをしていきたいと思います」。