那古野小路

小さな喫茶店で飲む
一杯のコーヒーから
世界と那古野を
つなげる

喫茶ニューポピー

 古き良き純喫茶の面影を蘇らせ、四間道の一角で店を営む『喫茶ニューポピー』。蔵造りの建物を眺めながら扉を開くと、コーヒーの香りがふわり。昭和情緒を感じるレトロモダンな空間が目に飛び込んでくる。入口の床にはコーヒーの麻袋が置かれ、その奥には焙煎機も設置されている。このコーヒー豆の焙煎はマスター・尾藤雅士さんの担当。ほぼ毎日焙煎しているという。これらをハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れたコーヒーにはファンも多い。
その中でも、尾藤さんが「ぜひ」と薦めてくれた東ティモール産のコーヒーをひと口いただいてみると、香り豊かで、ほどよいコクと香ばしさが広がる。それでいて、すっきりとした飲み口だ。昔ながらの “名古屋っぽいコーヒー“の趣きも感じさせながら、どこか新しい。そんな不思議な魅力を備えている。聞けば、この東ティモールのコーヒーはティピカという品種で、香り高さと独特の甘み、コーヒー本来の芳醇な香りを含む酸味が特徴で、病害虫に弱く生産性が低いため、栽培に手間のかかるコーヒー豆なのだとか。
 そんな東ティモールのコーヒー豆とどのように出会ったのか? それには少し長い時間がかかったのだと、尾藤さんが語ってくれた。

銅製のポット、ドリッパーを用いてハンドドリップでコーヒーを淹れる尾藤さん。入口近くにはコーヒーの生豆が入った麻袋が。これらを丁寧に焙煎する。

純喫茶のレトロな趣と新しさも感じさせる店内。家具や床、壁などすみずみまで思いが詰まっている。

 『喫茶ニューポピー』をオープンする以前の2011年、「珈琲焙煎豆販売 BEANSBITOU」を立ち上げ、コーヒーの味を追求してきた尾藤さん。しかし、「気温や湿度なども考慮しながら、同じ条件で焙煎しても微妙に味が違うと感じることがよくあるんです。お客様からも同様の質問を受けることがあり、仕入れ先の商社に質問を投げかけてみるのですが、明確な答えをもらえることは少なく、しだいに、自分が使うコーヒー豆は、誰がどこで作っているのかが分かるものを使いたい。『うちの畑で作ったコーヒー』と言えるような契約農家を持ちたいと思うようになったんです」。
 何年も探し求め、出会ったのが東ティモールだった。日本から訪れるには、飛行機を乗り継ぎ、さらに悪路を車で移動するため「片道で1日ちょっとかかります」という辺境の地。しかしながら日本とはあまり時差がないのが利点で、例えば豆について不明点があれば電話をし、その状態について質問できるのだそう。
 「先ほどお話した同じ焙煎をしていても別物の香味を感じた時、現地駐在員に電話をして尋ねてみると、『今使っているのはニュークロップ(収穫されたてのコーヒー豆)に切り替わったばかりのものだ』といった答えが即座に返ってくるんです。答えを導き出せると、焙煎具合を調整しやすくなります」。

 契約を結んだ農家があるのは、東ティモールのレヌマタ村。
 「標高が1500m近い山にコーヒーの木が自生しているんです。化学肥料は一切使わず栽培していて、コーヒーだけで生計を立てている小さな村ですが、そこに暮らす人たちがにぎやかで、とても幸福に満ちていると感じました」。
 現地には日本人の技師が滞在しており、より高品質なコーヒー豆を作るための勉強会を村で開催することも。
 「村の人たちはまだ熟していないコーヒー豆を収穫してしまうなど、ちょっと仕事が雑な部分もあるんです。最終的に現地の村の人たちで選別をするのですが、それはもう大変な作業。だから、コーヒー豆の収穫に関しては、日本から熟したコーヒーチェリー色のゴムバンドを持っていき、それと同じ色の豆を収穫するようお願いする。そんな小さなことから一つひとつ積み重ね、高品質なコーヒー豆を作る努力をしています」。現地でよりよいコーヒー豆を作ってもらい、それを日本で丁寧に焙煎してそのストーリーと共に売る。そうすることで、東ティモールの生産者たちの仕事が潤うのが理想だという。
日本に戻ってからも東ティモールの栽培風景を思い出すことがあるという尾藤さん。「そんな時は、この豆をきちんと焼いて、きちんと淹れなければと気持ちが引き締まります」。

 東ティモールで生産されたコーヒーを丁寧に焙煎し、クオリティの高いコーヒーへとブラッシュアップ。これを“まっとうな価格”で提供することで、『喫茶ニューポピー』のコーヒーが評判を呼び、多くのお客が訪れる――。
そんな理想の循環が、ここではすでに生まれているのではないだろうか。店を見渡すと、コーヒー片手に笑顔で語らうお客で賑わっている。そして、この1杯のコーヒーは、世界の生産者とつながっているのだから。
 「那古野の小さな喫茶店が提供する一杯のコーヒーで、いろんな世界とつながり、何かつくり出せれば」という尾藤さん。その想いは形になりつつある。

契約農家がある東ティモール現地を訪れた際の様子。1粒ずつ収穫し、完熟したものだけを丁寧に選別していく。精選は、新鮮な水で果肉と種を分離させるウォッシュド(水洗式)。

  • 那古野 みつ林
  • 喫茶ニューポピー
    きっさにゅーぽぴー
    TEL:052-433-8188
    住所:名古屋市西区那古野1-36-52
    営業時間:8:00~18:00(金・土は~22:00)
    定休日:不定休